エスペラントの話を聴きたい、よろしい、やりませう。
しかし先月の事だ、彩雲閣から世界語といふ謂はゞエスペラントの手ほどきのやうなものを出した、あの本の例言に一通り書いて置いたが、読んで下すつたか。え、まだ読まない、困つたねえ、ぢや仕方がない、少し重複になるが、由来からお話しませう。と云つて何も六むづかしい由来がある訳ではないが、詰つまり必要は発明の母ですね、エスペラントの発明されたのも畢竟ひつきやう必要に促されたに外ならんので、昔から世界通用語の必要は世界の人が皆感じてゐた、で、或は電信の符号のやうなものを作つて、○と見たら英人はサンと思へ、独逸人はゾンネと思へさ、ね、日本人なら太陽と読めと云つたやうな説もあつたが、そんな無理な事は到底行はれん。そこで、現在の各国に国語中一番弘く行はれてゐる英語とか仏語とかを採つて国際語にしたらといふ説も出たが、これも弊が多くて困る、成程なるほど英語が国際語になつたら英人には都合が好からうが夫それでは他の国民が迷惑する。
『エスペラントの話』二葉亭四迷(青空文庫)